大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 平成7年(わ)4268号 判決

主文

被告人を懲役三年に処する。

この裁判確定の日から五年間右刑の執行を猶予し、その猶予の期間中被告人を保護観察に付する。

押収してあるエルカード会員入会申込書一通(平成八年押第三五四号の1)及びカードローン契約書一通(同号の2)の各偽造部分並びに覚せい剤一袋(平成八年押第一三五号の1)をいずれも没収する。

訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、

第一  金融会社の無人店舗に設置された自動契約受付機を悪用して、他人名義の運転免許証を偽造するなどした上、他人になりすまして融資金入出用カードを騙し取ろうと企て、平成七年八月一一日ころ、大阪市港区弁天四丁目一八番一号付近路上に停車中の普通乗用自動車内において、行使の目的をもって、ほしいままに、大阪府公安委員会の記名、公印のある被告人の運転免許証の上に、山下滋の運転免許証写しから氏名、生年月日、本籍・国籍、住所、交付の各欄及び免許証番号欄の一部(上四桁、下三桁)を切り取ってこれを該当箇所に重なるようにして置き、さらに、その氏名欄の氏の部分に「小村」の文字のある紙片を置き、上からメンディングテープを全体に貼り付けて固定し、もって、被告人が小村滋であるような外観を呈する大阪府公安委員会作成名義の運転免許証(免許証番号〈省略〉)一通を偽造し、次いで、同月一二日午後五時一五分ころ、同市都島区東野田町二丁目九番一六号所在の第一京橋ビル二階のプロミス株式会社京橋支店「いらっしゃいまし~ん」コーナーにおいて、いずれも、行使の目的をもって、ほしいままに、同所備付けの借入申込書用紙の氏名欄に「小村滋」、自宅住所欄に「大阪府寝屋川市大字打上〈番地略〉」、勤務先名欄に「(株)高島屋工作所」、所在地欄に「大阪府南河内郡美原町木材通〈番地略〉」などと、極度借入基本契約書用紙の氏名欄に「小村滋」、自宅住所欄に「大阪府寝屋川市大字打上〈番地略〉」、などと、備付けのボールペンを用いてそれぞれ記載し、もって、小村滋作成名義の借入申込書及び極度借入基本契約書各一通を偽造し、引き続き、同コーナーに設置された自動契約受付機のイメージスキャナー(画像情報入力装置)に右偽造にかかる運転免許証、借入申込書及び極度借入基本契約書を順次読み取らせ、同イメージスキャナーと回線で接続された同支店設置のディスプレイ(画像出力装置)にこれを表示させるなどし、対応した同支店係員横山典広に対し、右偽造にかかる各文書が真正に作成されたものであるかのように装って一括呈示して行使し、同人をして、真実小村滋が借入れの申込みを行い、所定のとおり融資金の返済をなすものと欺き、よって、そのころ、同コーナーにおいて、右横山から、右自動契約受付機を通じて、小村滋名義のパルカード一枚の交付を受け、

第二  同日午後五時四二分ころ、前記「いらっしゃいまし~ん」コーナーに隣接して設置されているATMコーナーにおいて、同所備付けの現金自動入出金機に右詐取にかかる小村滋名義のパルカードを挿入して同機を作動させ、同機から前記支店支店長土肥利勝管理にかかる現金一〇万円を窃取し、

第三  同月一四日午後一一時二九分ころ、同市北区小松原町一番一〇号所在の梅田パルビル地下一階のプロミス株式会社梅田支店ATMコーナーにおいて、第二と同様の方法で、同所備付けの現金自動入出金機から同支店支店長河道和行管理にかかる現金一〇万円を窃取し、

第四  第一と同様のことを企て、同月二七日ころ、同市港区弁天四丁目七番九号所在のタツミマンション二〇三号の被告人方居室(当時)において、行使の目的をもって、ほしいままに、大阪府公安委員会の記名、公印のある被告人の運転免許証の上に、山下滋の運転免許証写しから氏名、生年月日、本籍・国籍、住所、交付の各欄を切り取ってこれを該当箇所に重なるようにして置き、さらに、その氏名欄の氏の部分に「小村」の文字のある紙片を、免許証番号の「11」の部分に「62」の文字のある紙片をそれぞれ置き、上からメンディングテープを全体に貼り付けて固定し、もって、被告人が小村滋であるような外観を呈する大阪府公安委員会作成名義の運転免許証(免許証番号〈省略〉)一通を偽造し、次いで、同月二八日午後六時五〇分ころ、同市北区曽根崎二丁目一二番七号所在の梅田第一ビル地下一階のアコム株式会社曽根崎支店東梅田「むじんくん」コーナーにおいて、いずれも、行使の目的をもって、ほしいままに、同所備付けのAC会員入会申込書用紙のお名前欄に「小村滋」、ご住所欄に「寝屋川市大字打上〈番地略〉」、お勤め先欄に「(株)高島屋工作所」、所在地欄に「南河内郡美原町材木通り」などと、カードローン基本契約書用紙の氏名欄に「小村滋」、住所欄に「寝屋川市大字打上〈番地略〉」などと、備付けのボールペンを用いてそれぞれ記載し、もって、小村滋作成名義のAC会員入会申込書及びカードローン基本契約書各一通を偽造し、引き続き、同コーナーに設置された自動契約受付機の読み取り用カメラに右偽造にかかる運転免許証、AC会員入会申込書及びカードローン基本契約書を順次読み取らせ、同カメラと回線で接続された同区曽根崎二丁目一三番三号所在のANビル二階の同社曽根崎支店に設置のディスプレイ(画像出力装置)にこれを表示させるなどし、対応した同支店係員吉田若葉に対し、右偽造にかかる各文書が真正に作成されたものであるかのように装って一括呈示して行使し、同人をして、真実小村滋が入会の申込み等を行うものと欺き、よって、そのころ、同コーナーにおいて、右吉田から、右自動契約受付機を通じて、小村滋名義のACカード一枚の交付を受け、

第五  同日午後七時二五分ころ、前記東梅田「むじんくん」コーナーに隣接して設置されているATMコーナーにおいて、同所備付けの現金自動入出金機に右詐取にかかる小村滋名義のACカードを挿入して同機を作動させ、同機から前記支店支店長横田慎治管理にかかる現金二〇万円を窃取し、

第六  第一と同様のことを企て、同年九月一二日ころ、前記タツミマンション二〇三号室において、行使の目的をもって、ほしいままに、佐野真奈美の運転免許証写しの上に被告人の運転免許証の氏名、生年月日、顔写真、大阪府公安委員会の記名、公印部分等及び奥田吉彦の運転免許証写しの本籍欄等をそれぞれ切り取って該当箇所に重なるようにして置いた上、その氏名欄の氏の部分に「川田」という文字のある紙片を置き、上から全体にメンディングテープを貼り付けるなどして固定し、もって、被告人が川田一哉であるような外観を呈する大阪府公安委員会作成名義の運転免許証(免許証番号〈省略〉)一通を偽造し、次いで、同月一四日午後五時二〇分ころ、同市中央区難波四丁目一番二号所在の三信ビル二階株式会社レイク近鉄難波支店「ひとりででき太」コーナーにおいて、いずれも、行使の目的をもって、ほしいままに、同所備付けのエルカード会員入会申込書用紙のお名前欄に「川田一哉」、ご住所欄に「大阪市旭区清水〈番地略〉」、お勤め先の会社名欄に「笑楽」、所在地欄に「堺市浜寺石津町西〈番地略〉」などと、カードローン契約書用紙のお名前欄に「川田一哉」、生年月日欄に「昭和45年5月14日」、ご住所欄に「大阪市旭区清水〈番地略〉」などと、備付けのボールペンを用いてそれぞれ記載し、もって、川田一哉作成名義のエルカード会員入会申込書(平成八年押第三五四号の1)及びカードローン契約書(同号の2)各一通を偽造し、引き続き、同コーナーに設置された自動契約受付機の読み取り用カメラに右偽造にかかる運転免許証、エルカード会員入会申込書及びカードローン契約書を順次読み取らせ、同カメラと回線で接続された同支店設置のディスプレイ(画像出力装置)にこれを表示させるなどし、対応した同支店係員岡本育子に対し、右偽造にかかる各文書が真正に作成されたもののように装って一括呈示して行使し、同人をして、真実川田一哉が入会の申込み等を行うものと欺き、よって、そのころ、同コーナーにおいて、右岡本から、右自動契約機を通じて、川田一哉名義のエルカード一枚の交付を受け、

第七  同日午後六時五分ころ、前記「ひとりででき太」コーナーに隣接して設置されているATMコーナーにおいて、同所備付けの現金自動入出金機に前記詐取にかかる川田一哉名義のエルカードを挿入して同機を作動させ、同機から前記支店支店長青木秀実管理にかかる現金三〇万円を窃取し、

第八  法定の除外事由がないのに、同年一〇月九日ころ、同市港区弁天五丁目一八番一号先路上に停車中の普通乗用自動車内において、フエニルメチルアミノプロパン塩酸塩を含有する覚せい剤結晶約〇・〇三グラムをガラス製器具に入れてライターの火で加熱、気化させて吸引し、もって、覚せい剤を使用し、

第九  みだりに、同月九日午後五時三五分ころ、同市中央区本町一丁目三番一八号所在の大阪府東警察署において、フエニルメチルアミノプロパン塩酸塩を含有する覚せい剤結晶約〇・二一〇グラム(平成八年押第一三五号の1はその鑑定残量)を所持し

たものである。

(証拠の標目)〈省略〉

(法令の適用)

被告人の判示第一、第四及び第六の各所為のうち、有印公文書偽造の点はいずれも刑法一五五条一項に、偽造有印公文書行使の点はいずれも同法一五八条一項、一五五条一項に、有印私文書偽造の点はいずれも同法一五九条一項に、偽造有印私文書行使の点はいずれも同法一六一条一項、一五九条一項に、詐欺の点はいずれも同法二四六条一項に、判示第二、第三、第五及び第七の各所為はいずれも同法二三五条に、判示第八の所為は覚せい剤取締法四一条の三第一項一号、一九条に、判示第九の所為は同法四一条の二第一項にそれぞれ該当するところ、判示第一、第四及び第六の偽造有印公文書及び偽造有印私文書の各行使は、それぞれ一個の行為で三個の罪名に触れる場合であり、有印公文書の各偽造とその各行使と各詐欺、有印私文書の各偽造とその各行使と各詐欺との間には、それぞれ順次手段結果の関係があるので、いずれも刑法五四条一項前段、後段、一〇条により結局以上を一罪として刑及び犯情の最も重い偽造有印公文書行使罪の刑で処断することとし、以上は同法四五条前段の併合罪であるので、同法四七条本文、一〇条により刑及び犯情の最も重い判示第六の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役三年に処し、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から五年間右刑の執行を猶予し、なお同法二五条の二第一項前段を適用して被告人を右猶予の期間中保護観察に付し、押収してあるエルカード会員入会申込書一通(平成八年押第三五四号の1)及びカードローン契約書一通(同号の2)の各偽造部分は判示第六の有印私文書偽造により生じた物であるとともに偽造有印私文書行使の犯罪行為を組成した物であって、いずれも何人の所有をも許さないものであるから、同法一九条一項一号、三号、二項本文により、押収してある覚せい剤一袋(平成八年押第一三五号の1)は判示第九の罪にかかる覚せい剤で犯人である被告人の所有するものであるから、覚せい剤取締法四一条の八第一項本文により、いずれもこれを没収し、訴訟費用については、刑事訴訟法一八一条一項本文により全部これを被告人に負担させることとする。

(弁護人の主張に対する判断)

弁護人は、文書偽造の罪における「偽造」といえるためには、偽造された文書が一般人をして正規の作成権限者がその権限内で作成した真正の文書であると誤認させるに足りる程度の形式・外観を備えていることを要するところ、被告人が作成した判示第一、第四及び第六の各運転免許証は、いずれも、誰が見ても偽物であるとわかるものであり、到底右の程度の形式・外観を備えているとはいえず、したがって、右各運転免許証の作成とその呈示・使用は、公文書の偽造・同行使には該当しない、現物そのものは誰が見ても偽物であるとわかっても、電子機器を通しての行使により、他人をして真正の文書が存在することを信用させるに足りる程度であれば偽造罪が成立する、との検察官の主張は、法律解釈というベールに包んで、実質的には罪刑法定主義を潜脱しようとするものであって許されない、と主張するので、以下、裁判所の判断を示すこととする。

まず、被告人が作成した本件各運転免許証は、判示の方法で作成されたものであり、すなわち、被告人の運転免許証の上に、山下の運転免許証写しから氏名、生年月日、本籍・国籍、住所、交付の各欄を切り取ってこれを該当箇所に重なるようにして置き、さらに、その氏名欄の氏の部分に「小村」の文字のある紙片を置くなどし(判示第一及び第四)、あるいは、佐野の運転免許証写しの上に、被告人の運転免許証の氏名、生年月日、顔写真、大阪府公安委員会の記名、公印部分等及び奥田の運転免許証写しの本籍欄等をそれぞれ切り取ってこれを該当箇所に重なるようにして置き、さらに、その氏名欄の氏の部分に「川田」の文字のある紙片を置くなどし(判示第六)、いずれも、その上からメンディングテープを貼り付けるなどして固定したものであり、運転免許証の大きさや記載内容(顔写真やカラー表示部分も含め)等は、通常の運転免許証と変わりなく、一応それらしき形式は備わっているということができること、しかし、表面は、メンディングテープで覆われているものの、切り貼りした工作の跡が容易にうかがわれ、また、裏面の記載が全くなかったり(判示第六)しており、外観上かなり問題があることが認められる。また、関係証拠によると、被告人は、これらの運転免許証を、それぞれ判示の各自動契約受付機の所定の位置に置き、同機備付けの読み取り用カメラないしイメージスキャナーでその記載内容を読み取らせ、これらと回線で接続された判示各支店設置のディスプレイに表示させているところ、担当の各係員は、いずれも、表示された運転免許証の画像を見て、その写真部分と自動契約受付機備付けのモニターカメラを通じて送られてくる被告人の生の顔が同一か否か、運転免許証の桜のマークが付いているかなどを、注意して確認したものの、格別不審な点は見つけられず、右運転免許証が真正なものと認識したことが認められる。

ところで、文書偽造罪における「偽造」といえるためには、当該文書が一般人をして真正に作成された文書であると誤認させるに足りる程度の形式・外観を備えていることが必要であることは、弁護人が主張するとおりである。しかし、ここで、当該文書の形式・外観が、一般人をして真正に作成された文書であると誤認させるに足りる程度であるか否かを判断するに当たっては、当該文書の客観的形状のみならず、当該文書の種類・性質や社会における機能、そこから想定される文書の行使の形態等をも併せて考慮しなければならない。これを、本件で問題とされる運転免許証についてみると、運転免許証は、自動車等の運転免許を受けているという事実を証明するためのみではなく、広く、人の住所、氏名等を証明するための身分証明書としての役割も果たしており、その行使の形態も様々であり、呈示の相手方は警察官等の公務員のほか、広く一般人であることもあり、また、必ずしも相手方が運転免許証のみを直に手に取って記載内容を読み取るとは限らず、免許証等入れのビニールケースに入ったまま、しかも、相手に手渡すことなく示す場合もあるし、その場面も、夜間、照明の暗い場所であったりするし、時間的にも、瞬時ないしごく短時間であることさえある。さらに、近時は、相手方の面前で呈示・使用されるだけではなく、身分証明のために、コピー機やファクシミリにより、あるいは、本件のように、イメージスキャナー等の電子機器を通して、間接的に相手方に呈示・使用される状況も生じてきている(このような呈示・使用が偽造文書行使罪における「行使」に該当することはもちろんである。)。したがって、運転免許証の偽造の程度を云々するに当たっては、このような行使の形態をも念頭に置いた上で、前記の判断をするのが相当であると考えられる。なお、弁護人は、電子機器を通しての行使を考えて偽造の程度を緩やかに解することは、罪刑法定主義からいって問題である旨主張するが、電子機器を通しての呈示・使用を運転免許証の行使の一形態として考慮して前述のように判断することは、何ら罪刑法定主義に反するものでないことはいうまでもない。

そこで、本件各運転免許証についてみると、その外観は前示のとおりであり、これを直接手に取って見れば、弁護人が指摘するように、誰にでも改ざんされたものであることは容易に見破られるものであるとみる余地がないではないが、電子機器を通しての呈示・使用も含め、運転免許証について通常想定される前述のような様々な行使の形態を考えてみると、一応形式は整っている上、表面がメンディングテープで一様に覆われており、真上から見る限りでは、表面の切り貼り等も必ずしもすぐ気付くとはいえないのであって、そうとすると、このようなものであっても、一般人をして真正に作成された文書であると誤認させるに足りる程度であると認められるというべきである(現に、本件では、イメージスキャナー等を通してではあるが、相手方係員らが真正な運転免許証であると誤認したことは前示のとおりである。)。

したがって、本件各運転免許証の作成とその呈示・使用が公文書の偽造・同行使には該当しないとの弁護人の主張は、採用することができない。

(量刑の理由)

本件は、(1)被告人が、金融会社の無人店舗に設置された自動契約受付機を悪用して、他人になりすましてキャッシングカードをだまし取った上、同カードを使って現金自動支払機から現金を借り出そうと企て、身分証明用の運転免許証及び借入契約書等を偽造、行使するなどして、三社からそれぞれキャッシングカード各一枚をだまし取り、これらを用いて現金合計七〇万円を窃取した、という有印公文書偽造・同行使、有印私文書偽造・同行使、詐欺、窃盗の事案(判示第一ないし第七の各犯行)と、(2)覚せい剤の自己使用及び所持各一件の事案(判示第八及び第九の各犯行)である。

(1)の各犯行については、覚せい剤を購入したりサーフィン等をして遊んだりする金欲しさに、サラ金からの借入れを重ねた挙げ句、前示の犯行に及んだものであって、その動機に酌量の余地はないこと、犯行の態様も、近時、消費者金融業界においてみられるようになった、無人店舗での自動契約受付機によるカードローン契約システムに目を付け、その盲点を巧みに利用し、しかも、自分がサラ金会社に勤めていた(平成七年八月下旬解雇)のを奇貨として、同社に保管してあった顧客の運転免許証のコピー等を無断で借用したり、貸付けにおける身元確認のノウハウ等の知識を悪用したりするなど、計画的かつ巧妙で、極めて悪質であること、窃取した金額も少なくないこと、新しい犯行手口として模倣性が強く、その社会的影響も無視できないこと、(2)の各犯行については、被告人の供述によれば、平成七年二月ころ、病気の妻子の看病疲れ等によるストレスを解消するため、覚せい剤に手を出して以来、密売人らから覚せい剤を買い求めては繰り返し使用していたというのであって、覚せい剤に対する親和性、依存性がうかがわれなくもないこと、サラ金会社を解雇されてからは、仕事もせず、遊びにふけるなど、生活状況もよくないことなどにかんがみると、本件の犯情は芳しくなく、被告人の刑事責任を軽くみることはできない。

しかし、他方、被告人は、本件各犯行を素直に認め、反省し、二度と覚せい剤に手を出さない旨誓っていること、父親の協力により本件被害各社に対し被害弁償をしていること、これまで前科等がないこと、相当期間身柄を拘束されていること、両親や将来の雇い主が被告人を監督する旨述べていることなど、被告人のために酌むことができる諸事情も認められるので、今回に限り、刑の執行を猶予するとともに保護観察に付し、社会内で更生の機会を与えるのが相当であると判断した。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 毛利晴光 裁判官 森岡孝介 裁判官 田中健司)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例